波打ち際日記

主に詩を書きます。

ひとつだけ

僕らが演じている日々の中で 立った一つ本当の事があるとすれば 蛇口を捻って、水が流れた-- 洗面所の鏡の向こうに写った昨日の夜の、寂し気な顔-- あれが、そうなのかもしれない

ならず者

ならず者の君は 今日も崩れて眠るのさ 半分たてた髪も 夕にはぺしゃんこ あれをしろとか これをしろとか もううんざりで 素敵な彼女でもいれば こうはならないのに

朝が来ない国で、僕らは夜明けのためにキスをした

朝が来ない国で、僕らは夜明けのためにキスをした ただ祈るために ともすれば道化師のように笑えてしまう枯れた現実から 少しでも遠くへ行けますように 少しでも 遠くへいけますように

やがて僕は解き放たれ

価値観という牢獄の中で 目を反らしたときに僕は初めて空の青さに気がついた 波の音も、緩やかな時間も、嫋やかな風も、すべてを抱きしめて この身だけの幸福を忘れたくないと祈りをあげた そしてまた横並びの人々に枷を付けられたとしても 僕は受け入れよう…

悲恋

ほんの少し赤らめた顔や ゆっくり溶けた道路の雪も 最終電車を待ってた君に どうしようもなく惹かれてたんだ かじかんだ指を絡ます その仕草、その声 ずっと握ってたかった手を なぜ離したんだろう

リビドウ

娼婦は唾液を絡めて ガラスのツバメが羽を織る 故郷を知らない猿たちが一夜だけ居場所を求める

睡眠薬

睡眠薬をミルクに落として 次の日に自分を連れて行く 体の震えも心の嗚咽も抱きしめて

手紙のような物

思った以上に大人になんてなれないし 相変わらず顔色が悪いんだ あれから皮肉の言葉ばっかり覚えたけど 案外少年の心のままでいられるものなんだな あの夏のあの午後の 教室のカーテンが揺れて中庭には君がいたんだ 可愛らしい弁当箱を持つ 君の隣にいるのは…

閑話

誰かが言った 「君はそんなに不幸じゃない」 続けて言った 「けど彼らのように輝いてはない」

教えてよ

優しい人になりたかった 誰一人だって 僕に優しさを教えてくれなかった すべてがどうでも良くなるくらい すべてが大嫌いだった僕には

或るいは失くしたはずの話

近所の浜辺に麦わら帽子の少女はいない 白いワンピースをなびかせる少女の姿なんて見当たらない ずっと望んでいた景色はそんな、淡い只の一枚絵

さよなら

ある朝僕が起きたら君が出て行こうと準備をしてた 止める事もなくいさめる事もなく ただそれをじっと見てた

22-18

神様には死者のくちづけを 忘れていたい 通り雨に打たれても 永久に笑えなくても

届かないままに

向かい側の君は 嫌いだったあの歌を 今日は何故か口ずさみながら 雨が通り過ぎるのを待っている あの日の僕ならば それを聴いて目を閉じて 心の中、伴奏をそえて ふたりだけの世界に浸るのだろう 今はその意味もなんとなしに 分かりかけた僕がいて こころの…

憂鬱な午後14時32分にて

彼らと違って 僕の電話が鳴ることはない 楽しい遊びの知らせもない 胸を焦がす恋の知らせも 他愛無い悲しい話も なにもない

時計

彼と彼女の時計は笑っている 彼と彼女の時計は泣いている 彼と彼女の時計は生きている 刻々、こくこく時間を刻んでいる 僕の時計は真っ白で針もなくただぽっかりと穴をあけている それでも外装は少しずつ傷ついていき いつかは壊れてしまうのだ

引き戸にしまった夏の季節は 冷たく変わって 痩せこけた葦の穂は 風に吹かれて つぶやきは街に飲まれ 誰の物でもなくなった

分からぬままに

しゃぼんをひとりで転がして遊んで 昨日のことを忘れてまして 何故かやる気も起きないまま眠ろうとして 窓を閉めたら外がやけに明るかった どうしようかな

あの赤のスカアト

雪の降る短い 冬が終わった 君の赤いスカアトをこの震える指でなぞることができたなら 訪れなかった幸福に身を委ねて この心を投げよう